ホワイトハウスは先週、バイトダンスに対してTikTokを米国もしくは友好国の企業に売却するための期限を再び延長し、交渉猶予として新たに71日間の期間を設けました。この動きに対して、ドナルド・トランプ大統領はTruth Socialで「TikTokを停止させたくない。我々はTikTokおよび中国と協力して、この取引を成立させたい」とコメントしています。
TikTokの存続は、米国内の1億7000万人のユーザーにとって重要な問題であると同時に、多くの企業にも影響を与える可能性があります。特に注目されるのが、先週有力な買収候補として浮上したアマゾン(AMZN)です。
*過去記事「アマゾンがTikTok買収に名乗り、買収期限直前の衝撃提案」
アマゾンにとっての戦略的価値
TDカウエンのアナリスト、ジョン・ブラックレッジ氏は、アマゾンによるTikTok買収について「2つの大きな利点がある」と指摘しています。一つは有力なソーシャルプラットフォームへのアクセス、もう一つはソーシャルコマース分野でのプレゼンスを加速させることです。
2024年のピュー研究所の調査によると、アメリカの成人の3分の1がTikTokを使用しており、30歳未満の層ではその割合が59%に達しています。13〜17歳のティーンエイジャーの過半数が毎日利用している一方、シニア層でも10人に1人が利用していることがわかっています。
TikTokは縦長のフルスクリーン動画による無限スクロール形式を先駆けて導入し、これはメタ・プラットフォームズ(META)のInstagramやアルファベット(GOOGL)のYouTubeにも模倣されています。
TikTok Shopがアマゾンにもたらす可能性
最近注目を集めているのが「TikTok Shop」の存在です。ここではブランドや個人が商品を直接販売することが可能で、シーインやテムなどのショッピングアプリと並び、アマゾンのeコマース支配に挑む存在とされています。
アマゾンは2022年に、TikTok Shopに対抗する形でアプリ内に「Inspire」を立ち上げましたが、利用者の獲得に失敗し、2024年2月にこのサービスを終了しました。TikTok Shopの買収は、アマゾンのソーシャルコマースの即時強化に加え、広告収入の増加にも寄与すると見られています。
買収実現のハードルと米中貿易摩擦
ただし、アマゾンによるTikTok買収の実現性は低いとの見方もあります。交渉に関与する関係者によると、市場ではアマゾンの入札が真剣に受け止められていないといいます。また、反トラスト法(独占禁止法)上の懸念もあります。
さらに注目すべきは、TikTokが現在利用しているクラウドサービスがオラクル(ORCL)である点です。買収が成立すれば、アマゾンは自社のクラウド部門AWSにTikTokのグローバルデータを移行する可能性があります。
しかし、直近では新たな障害が浮上しています。大統領による対中関税の引き上げが発表され、中国側はこれに反発。関係者によると、TikTokの過半数株式を米国の投資家に売却する案は、中国が協議継続を拒否したことで中断されたといいます。
オラクルが再び台頭する可能性も
TikTokのクラウド事業を既に保有しているオラクル(ORCL)が、買収の本命として再浮上する可能性も残されています。トランプ大統領の1期目には、オラクルの会長ラリー・エリソン氏がトランプ大統領との親密な関係を活かし、TikTokの米国クラウド事業を獲得しました。今回もその流れを引き継ぐ可能性があります。
ただし、オラクルはこれまで消費者向け事業に関わってこなかった企業であり、ソーシャルメディア、広告、eコマースといった領域での経験がない点がリスクとされています。
今後の展望
TikTokの今後は、米中間の通商交渉および規制当局の対応に大きく左右される情勢となっています。アマゾン、オラクルのどちらがTikTokを手に入れるにしても、今後数ヶ月の動きが鍵を握ることになりそうです。