米国株投資家にとって、「マグニフィセント・セブン」は2024年の市場を牽引した象徴的な銘柄群です。アマゾン・ドット・コム(AMZN)、アルファベット(GOOGL)、アップル(AAPL)、メタ・プラットフォームズ(META)、マイクロソフト(MSFT)、エヌビディア(NVDA)、そしてテスラ(TSLA)がそのリストに名を連ねています。しかし、最近のバロンズの記事では、この中でテスラだけが「異質な存在」であるという視点が示されています。本記事では、バロンズの報道をもとにしつつ、市場データや専門家の意見を踏まえて、テスラが本当にマグニフィセント・セブンの一員としてふさわしいのかを独自に分析します。
テスラの時価総額は「トップ7」から脱落
まず、時価総額の観点から見ると、テスラはすでにS&P500の上位7社には入っていません。2025年3月14日時点での時価総額は約8,040億ドルとされており(Yahoo Financeデータより)、これはバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)やブロードコム(AVGO)を下回る水準です。
テスラの株価は過去数年間で大きく上昇したものの、その評価は他のハイテク大手と比べて不安定です。現在のPER(株価収益率)は約85倍とされており(Yahoo Financeデータより)、これはマグニフィセント・シックスの平均PER(26倍)と比較するとかなり高い数値です。
テスラの高いPERは、将来の成長への期待を反映したものですが、売上の成長が市場の期待に追いつかなければ、現在の株価水準を維持するのは難しいと考えられます。
テスラの収益構造は他のハイテク大手と大きく異なる
テスラの営業利益率は2024年時点でわずか7%と報告されており(バロンズ記事より)、これは他のハイテク大手とは大きく異なる特徴です。マグニフィセント・シックスの企業は、クラウドサービスや広告事業、半導体といった高利益率の分野を主力としています。そのため、平均営業利益率は37%と、テスラの約5倍に達しています。
テスラの収益源は主に電気自動車(EV)販売であり、その価格競争が激化する中で利益率が低下しています。特に2025年は、中国のEVメーカーであるBYD(比亜迪)や、欧州の自動車メーカーも価格を下げて競争を激化させています。この状況が続けば、テスラの利益率はさらに圧迫される可能性が高いと予想されます。
テスラ株のボラティリティは他のハイテク大手と比較して異常に高い
テスラの株価の大きな特徴はボラティリティの高さです。過去1年の株価推移は139ドル〜489ドルの範囲で推移しており、その変動幅は350ドルにも及びます。これは、現在の株価のおよそ140%に相当します。
これに対し、マグニフィセント・シックスの銘柄の株価変動幅は50%以下に収まっています(バロンズ記事のデータより)。これは、テスラが他のテクノロジー大手と比べて市場の不確実性に大きく影響される銘柄であることを示唆しています。
さらに、ウォール街のアナリストによるテスラの目標株価のばらつきも極端です。最も低い予想が25ドル、最も高い予想が550ドルと、現在の株価の2倍以上の開きがあります。これほど大きな差があるのは、テスラの将来の成長に対する見方が市場で大きく分かれていることを意味します。
テスラは「夢」に支えられた銘柄
他のマグニフィセント・シックスの企業は、それぞれ確固たるビジネス基盤を持っています。例えば、
- アルファベットはグーグル検索とYouTube広告
- アップルはiPhoneとエコシステム
- メタはInstagramとFacebook広告
- エヌビディアはAI向け半導体
といった確立された収益源があります。
しかし、テスラはEV市場のシェア拡大に加えて、自動運転技術やヒューマノイドロボットなど、「まだ実現していない未来のビジネス」に対する期待が大きく反映されています。この点で、テスラはパランティア・テクノロジーズ(PLTR)やモデルナ(MRNA)など、将来の技術革新に大きく依存する企業と似た特性を持つと考えられます。
2025年のテスラの課題と今後の見通し
バロンズの記事では、テスラの今後の成長に対する懸念も指摘されています。
- 2025年1月の販売台数は、米国、欧州、中国の合計で前年同月比20%減少(市場データより)
- 世界的にテスラに対する抗議活動が増加
- 一部の消費者はテスラ車を売却、あるいは購入を見送る傾向
また、JPモルガンのアナリストであるライアン・ブリンクマン氏は、自動車業界の歴史において、これほど急速にブランド価値が低下した事例はないとの見解を示しています。
この状況を打開するためには、2025年後半に予定されている低価格EVモデルやロボタクシーの発表がカギを握るとみられています。テスラはこれまでにも何度か市場の期待を覆す発表を行ってきましたが、今回もそれが実現するかが焦点となります。
まとめ:テスラはマグニフィセント・セブンにふさわしいのか?
現在の市場環境を考えると、テスラは他のマグニフィセント・シックスとは異なる投資リスクを抱えています。特に、
- 時価総額がトップ7から脱落
- 営業利益率が低く、PERが割高
- 株価のボラティリティが極端に高い
- 事業基盤よりも「未来の夢」に依存
といった点を考慮すると、テスラはハイテク大手というよりも「成長期待銘柄」として分類する方が適切かもしれません。投資家にとって、テスラへの投資はハイリスク・ハイリターンの選択となっています。今後の株価動向は、マスク氏の経営判断と新製品の成功にかかっています。
*過去記事はこちら テスラ TSLA