2025年に入り、米国株市場は不安定な展開が続いています。特に、S&P500の下落を受け、ウォール街の主要なストラテジストたちが相次いで強気な市場予測を修正する動きを見せています。投資情報メディア「マーケットウォッチ」によると、ゴールドマン・サックス(GS)やヤルデニ・リサーチなどの大手金融機関がS&P500の年末目標を引き下げており、市場の先行きに対する慎重な見方が広がっています。
この背景には、ドナルド・トランプ大統領が掲げる関税政策の不透明感が大きく影響しています。トランプ政権は2024年の選挙戦で「アメリカ・ファースト」を掲げ、貿易赤字の是正を目指した関税政策を強化しています。しかし、その方針が頻繁に変わることで市場は混乱し、貿易相手国からの報復関税による影響も懸念されています。このため、投資家はリスク回避の動きを強めているようです。
ウォール街のS&P500予測修正とその背景
マーケットウォッチの記事によると、ゴールドマン・サックスは2025年末のS&P500目標を6,500から6,200に引き下げました。ゴールドマンの経済チームは、関税や政治的不確実性が米国経済の成長を鈍化させる可能性があると指摘しています。また、ヤルデニ・リサーチもS&P500の「ベストケース」予測を7,000から6,400に下方修正しました。これは、トランプ政権の政策がスタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)を引き起こすリスクを考慮したものです。
これらの修正を受け、ウォール街のS&P500の平均目標は6,607となり、2025年初めの6,667からやや低下しました。ただし、これは依然として現在のS&P500の水準(3月14日時点で5,638.94)から17%以上の上昇を見込んでいます。
RBCキャピタル・マーケッツのロリ・カルバシナ氏は、S&P500の目標を6,600と維持しながらも、14%〜20%の下落リスクがあると述べています。市場が現在「重要な分岐点」にあると考え、さらなるデータの確認が必要だと指摘しています。
一方、JPモルガン・チェース(JPM)のストラテジストチームは、S&P500の目標を6,500に維持しつつも、その達成が2026年にずれ込む可能性があると警戒しています。さらに、シティグループ(C)は、米国株の投資判断を「オーバーウェイト(強気)」から「ニュートラル(中立)」に引き下げ、市場に対する慎重な姿勢を示しました。
株式市場の現状と投資家の心理
S&P500は年初来で4.2%下落しており、ダウ・ジョーンズ工業株平均(DJIA)は2.5%、ナスダック総合指数(COMP)は8.1%下落しています(データ出典:ファクトセット)。市場では、トランプ政権の「成長志向」の政策に期待する声がある一方で、具体的な施策が見えないことへの不安が強まっています。税制優遇や規制緩和に関する具体的な政策が出てこないまま、関税政策や移民政策にばかり焦点が当たっていることが、企業業績への影響を懸念させています。
また、マーケットウォッチの記事では、個人投資家の間で短期的な弱気心理が高まっていることが指摘されています。ただし、これは逆張りの視点では市場の底打ちを示唆する可能性もあります。ウォール街のストラテジストたちは、S&P500の動向について慎重な見方を示しつつも、企業業績の見通しには大きな変化がないことを考慮し、今後の動きを注視しています。
企業業績とS&P500予測の関係
ウォール街のストラテジストは、S&P500の目標を算出する際に「企業の予想1株当たり利益(EPS)×予想株価収益率(P/E)」という計算をよく使用します。ファクトセットによると、S&P500の2025年通年EPS予想は271.05ドルで、1月初旬の274.19ドルからわずかに低下しています。一方、予想P/Eは19.9倍となっており、1月10日時点の21.6倍から低下しています。このP/Eの変動が、S&P500の目標価格に影響を与えていると考えられます。
マーケットウォッチの記事では、カーネギー・インベストメント・カウンセルのグレッグ・ハルター氏が、「ウォール街のストラテジストは、株価が急変する際に予測の修正が遅れがちである」と指摘していることが紹介されています。市場のボラティリティが高まると、ストラテジストが現在の株価水準に寄せる形で予測を修正する傾向があることがわかります。
今後の投資戦略と市場展望
市場は現在、大きな転換点にあります。トランプ政権の政策がどのように具体化されるかによって、市場の方向性は大きく変わる可能性があります。税制優遇や規制緩和が本格的に実施されれば、企業の業績改善につながり、株式市場にもプラスの影響が期待できます。しかし、関税政策の不透明感が続けば、企業の利益を圧迫し、株価のさらなる下落を招く展開も考えられます。
マーケットウォッチの記事では、ウォール街のS&P500予測が市場に対して遅れがちである点を指摘しており、投資家は短期的な予測の変化に振り回されるのではなく、長期的な視点で市場を見ることが重要だと示唆されています。
今後の投資戦略としては、企業業績の動向を注視しながら、過度な悲観論に流されずに市場の変動を冷静に分析することが求められます。市場のボラティリティが高まる中で、慎重な投資判断が必要となる局面です。