カナダの量子コンピュータ企業、ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)が、大きな注目を集めています。ウォール街のアナリストたちは、同社の最新の決算報告を受けて強気の姿勢を示しており、リサーチ・ノートでも支持する声が増えています。
ディーウェーブは3月13日に第4四半期の決算を発表し、研究機関への量子コンピュータ販売によって1,000万ドル以上の売上を見込んでいることを明らかにしました。しかし、売上規模は依然として小さく、営業費用は前四半期および前年同期比で増加を続けています。同社は、他の量子コンピュータ企業と同様に、まだ利益を生み出していません。
予想以上の赤字でも株価が急騰
ディーウェーブの四半期調整後利益は、予想以上に赤字幅が拡大しましたが、S&P500種株価指数が調整局面に入り、主要株価指数が下落する中で株価は19%上昇して13日の取引を終えました。
さらに、翌日の14日には株価が10.13ドルと46.6%の急騰を見せ、量子コンピュータ関連企業のリゲッティ・コンピューティング(RGTI)、イオンキュー (IONQ)、クォンタム・コンピューティング(QUBT)も、それぞれ28.23%、17.08%、29.12%の上昇となりました。
この急騰の背景には、アナリストたちの評価の上昇があります。パイパー・サンドラーのハーシュ・クマール氏は、目標株価を2.50ドルから8ドルへと220%引き上げ、「オーバーウェイト(買い推奨)」の格付けを再表明しました。
売上の大幅成長とシステム販売の拡大
ディーウェーブの2024年第4四半期の売上は1,830万ドルとなり、前年同期比502%増という驚異的な成長を遂げました。その主な要因は、ドイツの研究機関へ「Advantage」量子コンピュータを販売したことです。
さらに、同社は他の3つの研究機関ともシステム販売について協議中であり、2025年3月期にはサービス収入も順調に増加する見込みであるとアナリストは分析しています。
パイパー・サンドラーは、ディーウェーブが「長期的にアニーリング量子コンピューティング分野のリーダーとなる」と評価しており、強気の姿勢を取る理由の一つとしています。
ニーダムの評価、商用量子コンピュータのリーダーに
ニーダムのアナリスト、N.クイン・ボルトン氏も、ディーウェーブの目標株価を8.50ドルと設定し、「買い」の格付けを維持しています。
ディーウェーブは2022年に量子アニーリング技術に特化した唯一の上場企業となり、「商用量子コンピューティング・システムのリーダー」として位置づけられています。
ディーウェーブの量子コンピュータのアプローチは、エヌビディア(NVDA)やIBM(IBM)などの大手企業とは異なっています。多くの企業が「ゲートベース量子コンピュータ」に注力する中、ディーウェーブは「アニーリング量子コンピューティング」を軸に事業を展開しています。
ゲートベース量子コンピュータはスケーリングが難しく、商用利用において課題が多いとされていますが、ディーウェーブはアニーリング技術に特化することで、より現実的な商業化への道を歩んでいると評価されています。
財務の強化と今後の成長
ディーウェーブは、2024年にバランスシートを大幅に強化し、システム販売をビジネスモデルの重要な要素と位置づけています。特に、ドイツのユーリッヒ・スーパーコンピューティング・センターへ「Advantage」システムを販売したことは大きな成功となりました。このシステムは現地に設置され、スーパーコンピュータと連携し、より強力な計算能力を提供しています。
アナリストのレポートによると、このシステム販売は2024年第4四半期に計上され、システム売上の大部分は2025年第1四半期に認識される予定です。
今後の課題と投資家のリスク
ディーウェーブの今後の成長に期待が集まる一方で、ニーダムのアナリストは慎重な見方も示しています。
「同社は現在、Ebitda(利払い・税引き・償却前利益)がマイナスのため、投資家はEbitdaの損益分岐点を達成するまで希薄化する資金調達を覚悟する必要がある」と指摘しています。
量子コンピュータ業界の不確実性の多くは、技術開発のペースに関連しています。投資家も科学者も、量子コンピュータが完全に実現すれば、材料科学や人工知能(AI)を含む産業全体が変革されると考えています。しかし、それがいつになるのかは依然として不透明な状況です。
量子コンピュータ市場の転換点
2025年1月には、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが「有用な量子コンピュータはまだ何年も先」と発言したことを受け、ディーウェーブや同業他社の株価が大きく下落しました。しかし、今回の決算発表を受けて、市場の潮目が変わりつつあるようです。
ベンチマークのアナリストは、ディーウェーブの目標株価を8ドルに据え置き、「技術、財務、顧客基盤、事業開発イニシアチブのすべての面で継続的な進展が見られる」と評価しました。
また、2025年後半には次世代システム「Advantage2」の発売が予定されており、さらなる販売機会が期待されています。
まとめ
ディーウェーブは、商業・研究両分野で高い関心を集めており、着実に業績を伸ばしています。同社の技術的な進展や事業開発の動向は、量子コンピュータ業界全体の方向性を示す重要な指標となっています。
今後もシステム販売の拡大と財務の健全化に注目が集まる中、投資家にとってはリスクと成長のバランスを慎重に見極める必要があります。量子コンピュータ市場が本格的に開花する時期を見据えながら、ディーウェーブの動向を注視していきたいと思います。