バイキング・セラピューティクス(VKTX)の株価が3月12日の米国市場で10%近く上昇しました。これは、同社の経口肥満治療薬「VK2735」の製造契約が確保され、市場の懸念材料が解消されたためです。サンディエゴに拠点を置くバイキング・セラピューティクスは、スイスの非公開企業であるコーデンファーマ(CordenPharma)と広範な製造契約を締結しました。この契約は、医薬品有効成分(API)および最終完成品の供給を対象としています。
VK2735の開発進展と市場の期待
バイキング・セラピューティクスは現在、VK2735の第2a相試験を実施しており、2025年後半には試験データが公表される見込みです。また、2025年前半には注射剤の第3相試験を開始する予定です。
現在、市場をリードしているのはイーライ・リリー(LLY)とノボ・ノルディスク(NVO)ですが、これらの企業が提供する肥満症および糖尿病治療薬は注射剤のみです。錠剤タイプのVK2735は、患者の利便性を大きく向上させる可能性があり、市場に革新をもたらすことが期待されています。
製造契約による市場の反応
このニュースに対し、バイキング・セラピューティクスをカバーするアナリストのうち、16人が「買い」推奨を出しました。一方、保留推奨を付けたのは1人のみであり、この結果はVK2735の臨床的な優位性と市場の成長性を反映しています。
2024年に大きく上昇したバイキング・セラピューティクスの株価ですが、2025年に入ってからは27%下落しています。これは、同社の薬剤が承認された際の量産体制に対する不安が影響しています。しかし、今回の製造契約により、この懸念が払拭されたと考えられます。
GLP-1市場への参入とコーデンファーマの役割
アナリストの間では、今回の契約を「極めてポジティブ」と評価する声が多く、バイキング・セラピューティクスがGLP-1ブランド薬市場で第3位の座に近づいたと見られています。コーデンファーマはGLP-1薬の需要増加を見越し、ペプチド生産の規模拡大に投資している信頼性の高い製造受託機関(CDMO)です。
2024年には、コーデンファーマがコロラド州ボールダーの施設で新たなペプチド生産を開始するために、非公開の顧客から約10億ドルの契約を確保したと報告されています。
バイキング・セラピューティクスの経営陣は、イーライ・リリーが「Lilly Direct」を通じてバイアル・注射器を提供しているように、従来の流通チャネルを活用した自動注射器と、独自の販売モデルを導入する計画を明らかにしました。
製造能力の確保と成長戦略
今回の契約により、VK2735の注射剤および経口剤の製造が確保され、年間380万患者分の注射剤と270万患者分の錠剤が生産可能となります。さらに、増産の余地もあるとされています。
契約条件によると、バイキング・セラピューティクスは今後3年間にわたり、コーデンファーマに1億5000万ドルの前払いを行います。投資銀行のウィリアム・ブレアは、この金額は大きな投資と見なされるものの、将来的な売上増加につながると評価しました。
一部の投資家からは、今回の契約がバイキング・セラピューティクスの完全買収の可能性を低下させるのではないかという懸念もあります。しかし、アナリストのアンドリュー・シェー氏とアレクサンドラ・ラムジー氏は「APIや関連機器の調達が重要であることを考慮すると、買収交渉が進行中であっても、このような契約を遅らせることは得策ではない」と述べています。
市場規模と売上の試算
ウィリアム・ブレアの分析によると、イーライ・リリーがLilly Directを通じて販売しているZepboundの価格設定を基に試算したところ、合計650万回分の投与により、390億ドルの売上が見込まれています。
レイモンド・ジェームズのアナリストもこの契約を評価し、「GLP-1薬の供給不足が市場に与える影響を考慮すると、VK2735の安定供給を確保することは戦略的に極めて重要である」と指摘しました。
まとめ
今回の製造契約により、バイキング・セラピューティクスのVK2735は市場投入に向けて大きく前進しました。GLP-1市場の成長を背景に、バイキング・セラピューティクスがこの分野で確固たる地位を築く可能性が高まっています。アナリストの評価も引き続き高く、2025年も同社の成長に期待が集まっています。