米国のソフトウェア大手セールスフォース(CRM)が2月26日、2025年度第4四半期の決算を発表しました。この決算はまちまちの内容となり、市場の期待を一部下回ったことから、株価は時間外取引で下落しました。
第4四半期決算の概要
セールスフォースの第4四半期決算は以下の通りです。
- 調整後の1株当たり利益(EPS): 2.78ドル(前年同期比21%増)
- 売上高: 99億9,000万ドル(前年同期比8%増)
- 市場予想との比較:
- EPSは市場予想の2.61ドルを上回った
- 売上高は市場予想の100億4,000万ドルを下回った
市場の反応として、決算発表後にセールスフォースの株価は5.48%下落しました。特に、2026年度の売上ガイダンスが市場予想を下回ったことが投資家の懸念を呼びました。
2026年度のガイダンスが市場予想を下回る
セールスフォースは2026年度の売上ガイダンスを407億ドル(中間値)と発表しましたが、ウォール街のアナリストのコンセンサス予想である413.7億ドルを下回る結果となりました。また、第1四半期のガイダンスも予想を下回る内容で、市場の期待感を損ねる要因となりました。
セールスフォースの成長率の鈍化
セールスフォースは過去20年間、年平均20%以上の成長を続けてきました。しかし、2022年以降は成長率が鈍化し、現在の成長率は1桁台後半(8%)にとどまっています。アナリストは、この成長鈍化が2027年度まで続くと予想しています。
成長の鈍化は、セールスフォースが成熟したソフトウェア企業へと移行していることを示しています。しかし、この変化は必ずしも悪いことではありません。成熟企業となることで、フリーキャッシュフローの増加や株主還元の強化といった新たな展開が期待できます。
フリーキャッシュフローと株主還元の増加
セールスフォースは2025会計年度において、売上の33%をフリーキャッシュフローとして確保しました。これは前年の27%から増加しており、財務の安定性が向上していることを示しています。
また、2022年10月に自社株買いを開始し、2024年4月には初の配当を実施しました。今後、さらに株主還元を強化する可能性があります。
AIを活用した新たな成長戦略
セールスフォースは、人工知能(AI)の活用により成長の加速を目指しています。特に、近年のAIブームを捉え、新たな自動化ソフトウェア「Agentforce」を発表しました。
Agentforceは、GPT、DeepSeek、Llamaといった言語モデルの上位に位置するソフトウェアで、自然言語のプロンプトから一連のタスクを自動化できる仕組みです。これにより、セールスフォースのCRM(顧客管理)ソフトウェアの活用範囲を広げることが期待されています。
多くの専門家は、2025年が自律型AIエージェントの本格普及の年になると予測しています。しかし、現時点では市場にまだ大きなインパクトを与えておらず、今後の普及が課題となります。
競争環境と課題
AIエージェント市場には、セールスフォースだけでなくマイクロソフト(MSFT)やアルファベット(GOOGL)といった大手企業も参入しています。特にマイクロソフトはOpenAIとの提携を活かし、CopilotなどのAIアシスタントを展開しており、セールスフォースにとって強力な競争相手となります。
Agentforceがセールスフォースの売上成長をどれほど加速できるかは不透明です。D.A.ダビッドソンのアナリスト、ギル・ルリア氏は、「Agentforceの市場での盛り上がりは見られるものの、2025年や2026年の売上成長を大きく押し上げることはないと考えている」と指摘しています。また、Agentforceの導入に多くのリソースを割いているため、既存事業の成長が犠牲になっている可能性も指摘されています。
セールスフォースの今後の展望
セールスフォースは成長企業から成熟企業へと移行する過程にあります。この変化は成長率の鈍化を意味する一方で、キャッシュフローの増加や株主還元の拡大という新たなメリットを生み出しています。
また、AIの活用を通じて新たな成長機会を模索しており、Agentforceが今後どのように展開されるかが重要なポイントとなります。ただし、市場競争が激化する中で、すぐに大きな売上成長を実現するのは難しいかもしれません。
投資家にとっては、短期的な成長鈍化をどう評価するかが重要な判断基準となります。長期的には、AI技術を活用した新規事業の成長が企業価値を押し上げる可能性があり、今後の展開に注目が集まります。