中国AIスタートアップ「ディープシーク」へのアクセス制限が世界的に拡大

  • 2025年1月31日
  • 2025年1月31日
  • BS余話

中国の人工知能(AI)スタートアップ「ディープシーク(DeepSeek)」がリリースした新たなAIツールに対し、世界中の企業や政府機関がアクセス制限を強化しています。この動きの背景には、データの取り扱いやプライバシー管理に関する懸念があります。特に、中国政府の影響を受ける可能性が指摘されており、多くの企業や組織が慎重な対応を求めています。

企業のアクセス制限が進む背景

サイバーセキュリティ企業「アーミス(Armis Inc.)」の最高技術責任者(CTO)であるナディール・イズラエル氏は、同社の顧客がディープシークへのアクセスを制限していることを明らかにしました。また、ネットワークセキュリティ企業「ネットスコープ(Netskope)」の顧客も同様に対応を進めており、ネットスコープの脅威ラボのディレクターであるレイ・カンザニーズ氏によると、同社の顧客の52%がディープシークへのアクセスを完全にブロックしていると述べています。

この動きの最大の懸念は、AIモデルが中国政府にデータを流出させる可能性があることです。ディープシークのプライバシーポリシーでは、同社が収集するデータが中国のサーバーに保存され、中国の法律が適用されることが明記されています。この点が、企業や政府機関にとって大きなリスクとなっているのです。

急成長するディープシークと高まる懸念

ディープシークは、著名な技術経営者のマーク・アンドリーセン氏をはじめとする投資家からの支持を受け、急成長を遂げています。最近では、同社のAIチャットボットがアップルのアプリストアでダウンロードランキングのトップに躍り出るなど、市場での注目度も急上昇しています。

しかし、その一方で、プライバシー管理の不透明さやデータの取り扱いに関する懸念が高まっています。ディープシークのプライバシーポリシーによると、同社はAIモデルの学習のために、ユーザーのキー入力やテキスト入力、音声入力、アップロードされたファイル、フィードバック、チャット履歴などのデータを収集しているとされています。また、これらの情報を法執行機関や公的機関と共有することができるとも記されています。

セキュリティ研究者による調査結果

ディープシークのセキュリティを調査したサイバー研究者は、同社が所有する一般にアクセス可能なデータベースに内部データが含まれていることを発見しました。このデータベースには、ディープシークのチャット履歴、バックエンドの詳細、技術ログデータの一部が含まれていたといいます。

サイバーセキュリティ企業「ウィズ(Wiz)」によると、ディープシークはこの発見の報告を受けた後に、情報の保護措置を講じたとのことです。しかし、こうしたセキュリティ上のリスクが明らかになったことで、多くの企業がディープシークへのアクセスを制限する動きを加速させています。

世界各国の規制当局がディープシークを精査

各国政府もディープシークのプライバシー管理について精査を進めています。イタリアの個人情報保護規制当局は、イタリア国民のデータを保護するために「緊急かつ即時に」ディープシークをブロックするよう命じました。また、アイルランドのデータ保護委員会は、欧州連合(EU)のプライバシー規制の適用を見据え、ディープシークに対しユーザーデータの保護状況に関する情報を求めています。

さらに、英国の情報コミッショナー事務局は、生成AI開発者に対し、個人データの使用方法について透明性を持つよう求めています。同局は、規制の期待が無視された場合にはいつでも措置を講じると警告しています。

サイバーセキュリティ業界への影響

ディープシークの台頭とそれに伴うセキュリティリスクの増大は、サイバーセキュリティ市場にも影響を与えています。ブルームバーグ・インテリジェンスの調査によると、ディープシークを含む生成AIサービスの普及拡大により、サイバーセキュリティサービスの需要が増加すると予測されています。

この流れの中で、サイバーセキュリティ企業クラウドストライク・ホールディングス(CRWD)パロアルトネットワークス(PANW)センチネルワン(S)といった企業が恩恵を受ける可能性が高いと、ブルームバーグのアナリストであるマンディープ・シン氏とダミアン・レイマーツ氏は指摘しています。

まとめ

ディープシークのAIツールに対するアクセス制限が世界的に広がっている背景には、データの取り扱いに関する懸念が大きく影響しています。企業や政府機関は、機密情報の流出リスクを最小限に抑えるため、慎重な対応を求められています。

一方で、サイバーセキュリティ市場の拡大という新たな動きも見られます。今後、AI技術の進化とともに、データ保護やセキュリティ対策の重要性がますます高まることが予想されます。

*過去記事「ディープシークの衝撃!AI市場の勢力図が大きく変わる?

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