アップルの次の一手:セルラーモデム市場のゲームチェンジャーとなるか?

米国の大手テクノロジー企業アップル(AAPL)は、長年にわたるパートナーでありながら競合関係にあるクアルコム(QCOM)の部品を置き換える自社開発のセルラーモデムチップを、ついに市場に投入する準備を進めています。この取り組みは、アップルの戦略において大きな転換点となる可能性があります。

モデム開発の背景と進展

アップルがモデム開発に着手したのは5年以上前のことで、当初2021年の市場投入を目指していました。しかし、プロトタイプの性能や設計上の問題が次々と発生し、計画は大幅に遅延しました。同社は問題解決のため、インテル(INTC)のモデムグループを約10億ドルで買収し、エンジニアリングラボの設置や人材採用にも数十億ドルを投じています。

このような困難を乗り越え、アップルの自社開発モデム「シノプ」は、2025年春にデビュー予定です。まずは、同社のエントリーレベルスマートフォン「iPhone SE」に搭載される見込みで、続いて「D23」と呼ばれる新型ミッドレンジiPhoneにも採用される計画です。

クアルコムとの競争と市場への影響

アップルのモデムプロジェクトの成功は、クアルコムの売上に直接影響を及ぼす可能性があります。クアルコムは長年、アップルの主要なモデムサプライヤーであり、同社の売上の20%以上を占めていました。ブルームバーグが今回のニュースを報道した後、クアルコムの株価は一時的に下落し、同様に関連する部品を供給するコルボ(QRVO)の株価も下落しました。

一方、アップルのパートナーであるブロードコム(AVGO)やスカイワークス・ソリューションズ(SWKS)の株価は上昇しており、同社のサプライチェーンにおける変化が市場に与える影響の大きさを示しています。

シノプモデムの特徴と課題

シノプは、アップルのハイエンドモデルに搭載されているクアルコム製モデムほど先進的ではなく、特にmmWave(ミリ波帯)技術には対応していません。また、ダウンロード速度やキャリアアグリゲーションのサポート数においても、クアルコム製品に劣ります。

しかし、シノプにはいくつかの利点があります。アップルが設計したメインプロセッサと緊密に統合されており、消費電力が少なく、効率的な携帯電話サービススキャンが可能です。また、衛星ネットワークへの接続能力が向上し、SAR(比吸収率)の制限値に対する性能も高い水準に達しています。

さらに、デュアルSIMデュアルスタンバイ(DSDS)をサポートする予定で、1台のデバイスで複数の電話番号を利用できる機能も備えています。

将来の展望

アップルは2026年までに第2世代モデム「Ganymede」を導入し、クアルコムの技術水準に近づく計画です。このモデムは、mmWaveに対応し、ダウンロード速度やキャリアアグリゲーションの性能が大幅に向上すると見られています。

さらに、2027年には第3世代モデム「プロメテウス」を展開し、人工知能機能や次世代衛星ネットワークのサポートを追加することを目指しています。最終的には、モデムとメインプロセッサを単一のコンポーネントに統合するという野心的な目標も視野に入れています。

市場への影響とアップルの戦略

アップルが自社開発モデムの導入を進める中、クアルコムをはじめとする既存サプライヤーへの影響は避けられません。この取り組みは、単なる部品調達の見直しにとどまらず、アップルが自社製品の技術的独立性を高める重要なステップとなる可能性があります。

モデム技術の開発と進化は時間とリソースを要しますが、アップルが達成した進展は、同社が市場においてさらなる競争優位性を獲得するための基盤を築いていることを示しています。

*過去記事はこちら アップル AAPL

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