近年、米国株式市場では24時間取引への関心が高まっています。暗号資産やスポーツ賭博、さらには政治賭博など、従来の取引時間外にもアクセス可能な市場が増える中、「なぜ株式取引も24時間にしないのか?」という声が強まっています。
ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)がドミノ・ピザ(DPZ)株に5億5000万ドルの投資を発表した際、その株価はアフターマーケットで一時8%上昇しましたが、翌日には1%下落しました。このような値動きの激しさは、時間外取引のリスクを象徴しています。しかし、テクノロジー企業や規制緩和の動きが、このリスクを軽減しつつ24時間取引の実現を目指しています。
株式市場の24時間化に向けた最新動向
ブローカーの取り組み
近年、多くの証券会社やブローカーが取引時間を拡大しています。インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)、ロビンフッド(HOOD)、チャールズ・シュワブ(SCHW)、ウェブルといった大手プレイヤーに加え、新興企業のMoomooなどが24時間取引の提供を始めています。
特にロビンフッドでは、2023年から900以上の銘柄でアフターアワー取引を提供。CEOのウラジミール・テネフ氏は、「24時間取引のような新製品は非常に人気があり、成長を牽引している」と語ります。同社のアフターアワー取引の累計取引量は、2023年以降400億ドルに達しました。
取引所の動き
ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)は、NYSE Arca電子プラットフォームの取引時間を1日22時間に拡大する計画を発表しました。この変更は米国証券取引委員会(SEC)の承認を必要としますが、トランプ次期政権の規制当局が、ゲリー・ゲンスラー氏よりもウォール街寄りの人物を委員長に任命する可能性が高いため、承認は現実的だと見られています。
世界的な需要の拡大
アジア市場からの需要も急増しています。アジアの投資家が米国株式にアクセスするための24時間取引は、すでにウェブルやTastytradeによって提供されています。また、若年層の投資家はアマゾンのように「いつでも取引可能」な環境を求めており、この需要が市場拡大の一因となっています。
24時間取引の課題とリスク
薄い流動性とボラティリティ
現在、取引時間外の流動性は依然として薄く、取引量も全体の10%未満です。特に午後8時以降は流動性がさらに低下し、ボラティリティが高まります。このため、価格変動が激しくなる一方で、翌日の市場で修正されるケースが多々あります。
手数料とスプレッドの問題
取引手数料は昼夜を問わず同じですが、時間外取引ではビッドとアスクのスプレッドが広がるため、最良価格での取引が難しくなります。さらに、ほとんどのブローカーは時間外取引を制限注文に限定しており、価格が指定範囲内に達しない限り注文が成立しない可能性があります。
プロの取引プレイヤーとの競争
時間外市場ではヘッジファンド、アルゴリズムトレーダー、海外のプロ投資家が支配的です。このため、個人投資家は通常の取引時間帯よりも不利な条件で取引を行うリスクがあります。
24時間取引への期待とその未来
潜在的な利点
24時間取引が定着すれば、取引量の増加、スプレッドの縮小、情報の効率的な消化が期待されます。また、暗号資産市場のように常時稼働することで、取引機会の拡大と市場の効率性が向上する可能性があります。
実現に向けた課題
クリアリングと決済サービスの対応が重要な課題です。米国のDTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)は24時間取引対応の可能性について議論を進めていますが、現時点では公式な発表はありません。
投資家心理の変化
ロビンフッドのクイーク氏は、「暗号資産が眠らないように、株式市場も眠らない未来が来る」と述べています。一方で、Bettermentなどのアドバイザリー会社は、深夜の取引が衝動的な判断を招きやすいとして警戒感を示しています。
まとめ:24時間取引の到来は時間の問題か?
株式市場の24時間取引は、技術革新と規制緩和の進展により、今後数年以内に現実のものになる可能性が高いと予想されています。しかし、その実現には流動性、透明性、決済システムの改善が必要です。また、個人投資家にとっては、取引のリスクと利益を慎重に見極めることが求められます。
市場が眠らない時代が本格的に到来する日は、着実に近づいているといえます。