過去15年間、米国の石油採掘業界はテキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地を、世界で最も重要な油田地帯へと変貌させてきました。この変化は、パイプの再設計や圧力・化学反応の応用によって実現されました。そして現在、業界は新たな技術である人工知能（AI）に注目しています。AIの活用により、今後数十年にわたって石油採掘が可能になると期待されています。
AIとエネルギー業界の相性の良さ
AIは、一部の業界では単なる便利ツールと捉えられることもありますが、エネルギー業界においてはその位置づけが異なります。ある専門家は、AIの導入により、企業の石油採掘量が中東の国全体の生産量に匹敵するレベルに達すると予測しています。世界最大の石油サービス会社シュルンベルジェ（SLB）のデジタル事業責任者、ラケッシュ・ジャギ氏は「クウェートをオンライン化するようなものだ」と述べています。
コスト削減と生産性の飛躍的向上
石油会社は、より少ないコストでより多くの石油を生産するためにAIを活用しています。過去10年間で、アメリカでは労働者数を40％削減しつつ、1日あたりの石油生産量を60％増加させました。資本支出と人員を削減しながら石油の採掘量を増やした結果、パーミアン盆地における石油生産者の損益分岐点は、2012年の1バレル90ドル超から40ドルに低下しました。さらに、AIの進化によって、この数字がさらに下がることが期待されています。
大手石油企業とAIの取り組み
主要なパーミアン盆地の石油生産企業であるエクソンモービル（XOM）、シェブロン（CVX）、ダイヤモンドバック・エナジー（FANG）、EOGリソーシズ（EOG）、オクシデンタル・ペトロリアム（OXY）は、効率性の向上によって余剰資金を生み出しています。これらの企業は、原油価格が低迷している間でも、配当金の増加を続けることが可能となっています。中には、配当利回りが4％を超える企業もあります。
油田管理のデジタル化と遠隔操作
石油採掘作業は、従来の機械的なプロセスから、デジタル技術を駆使したプロセスへと進化しています。シェブロンはテキサス州ミッドランドに遠隔操作センターを設置し、パーミアン盆地全体に広がる数千もの機器を管理しています。センターでは、作業員が複数のコンピュータ画面を使い、油田の状況をリアルタイムで監視・操作しています。一部の機器は、AIを用いたソフトウェアによって自律的に制御されています。
掘削技術の進化と環境への配慮
掘削プロセスも大幅に進化しています。シェブロンは電気式掘削装置やソーラー発電を活用し、環境負荷を低減しています。また、メタンガス漏れを自動検知し、温室効果ガス排出量を60％削減するシステムを導入しました。これにより、効率性と環境への配慮が両立されています。
パーミアン盆地におけるAIの活用
パーミアン盆地では、AIが地下のどの部分から最も多くの石油を採掘できるかを予測する技術が活用されています。シェブロンのAIツールは、掘削の最適化を支援し、石油回収率を従来の10％以上に引き上げることを目指しています。これにより、採掘効率がさらに向上することが期待されています。
AIが石油輸出国としてのアメリカを支える
アメリカの石油生産量は、2007年の1日510万バレルから現在では1,340万バレルへと増加しました。この効率性向上は、アメリカの貿易赤字を削減し、石油輸出国としての地位を確立する原動力となっています。
AIへの投資と今後の展望
石油・ガス会社のAI関連支出は現在、資本支出の5％未満にとどまっていますが、今後5年間で80％増加する可能性があるとされています。シュルンベルジェは、デジタル部門の売上が来年には30億ドルを超えると予測しており、AIを活用した掘削や生産の効率化が一層進むと見られています。
まとめ
石油採掘業界におけるAIの導入は、効率性と生産性を大幅に向上させ、企業の利益拡大と環境負荷の軽減に寄与しています。これにより、アメリカは世界最大の石油生産国としての地位をさらに強固なものにしています。AIと石油の融合がもたらす未来には、大きな可能性が秘められています。