米国商務省が先端チップの中国輸出停止を要請したことにより、TSMCとして知られる台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)の株価は下落しています。この動きは、米国政府の対中技術規制強化の一環です。11月11日の米国市場での終値は3.55%安の194.05ドルでした。これは先月以来最大の下落率であり、市場は強く反応しました。
米国の対中輸出制限の背景
米国政府は、人工知能(AI)やその他の先端技術に使用されるプロセッサが中国へ流出することを防ぐために、チップメーカーに対して厳格な輸出規制を強化しています。この規制の一環として、TSMCはファーウェイのような貿易制限リストに掲載された企業へは先端チップを供給できないとの指示を受けました。先月には、TSMCのプロセッサの一部がファーウェイのAIデータセンターに納入されていたことが報告され、米国政府はこうした「規制の盲点」を防ぐためにさらなる監視体制を敷いています。
米国のAI競争と軍事利用の懸念
米中間のAI技術を巡る競争が加速する中、米国は中国が先端チップを軍事目的で利用する可能性を強く懸念しています。このため、商務省はTSMCに対して、7ナノメートルおよびその他の先端チップを中国企業に輸出しないよう通知しました。これは、AI分野での中国の技術的優位性の向上を防ぐ意図が背景にあります。
他の企業も影響を受ける
この規制の影響を受けるのはTSMCだけではなく、エヌビディア(NVDA)やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)も中国向けの半導体出荷を減少させています。米国の対中規制が広がる中、これらの企業は中国市場での売上を一部放棄せざるを得ない状況となっています。特に、エヌビディアやAMDは中国向け売上の20%以上が減少する可能性があり、全体収益に対する影響が懸念されています。
TSM株の今後の動向 – 中国市場依存度と地政学リスク
TSMCの2023年第3四半期の売上の約11%が中国市場からのものであり、今回の規制が短期的な成長に与える影響は限定的と見られています。しかし、米中間の地政学的緊張が高まる中、投資家は慎重な視点を持つべきです。特に、規制が強化されるたびにTSMCの株価には圧力がかかる可能性があります。さらなる規制が加えられると、中国市場からの売上減少が同社の収益性や成長性により大きな影響を与えることが懸念されます。TSMCは中国市場依存度を低減するためのサプライチェーン再編や新市場の開拓にも力を入れているため、今後の動向に注目することが重要です。
まとめ
TSMCの株価は、米国政府による対中技術規制強化を受けて下落しましたが、投資家は長期的視点で同社の動向を見守る必要があります。短期的な下落は米中関係の影響である一方、TSMCはサプライチェーンの再編や新たな市場開拓に取り組んでおり、長期的な成長の見通しには依然として注目が集まります。米中間の技術的な競争や地政学的リスクが、TSMCをはじめとする半導体企業の収益構造に影響を及ぼしつつあることから、今後の市場動向に注目が必要です。
*過去記事 TSMC