最近の米国株式市場は、これまで注目されてきたビッグ・テック株から、バリュー株へのシフトを示唆する動きが見られます。特に、ラッセル1000バリュー・インデックスの銘柄に注目が集まり、その中でも配当利回りの高い銘柄が投資家の関心を引いています。
インフレの冷え込みとFRBの利下げサイクル
インフレが冷え込み、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げサイクルに入る可能性がある中で、配当利回りの高いバリュー株への投資はますます魅力的になっています。
*ファクトセットの配当利回りの計算は、過去12ヵ月間に企業が支払った1株当たり配当金総額を現在の株価で割る方法が用いられています。
配当利回りの高い銘柄を選ぶ方法
配当利回りが高い銘柄を選ぶ際には、減配のリスクにも注意が必要です。そのためには、過去12ヵ月間のフリー・キャッシュ・フロー(FCF)利回りや、予想FCF利回りを基に、企業の配当支払い能力を評価することが有効です。特に、FCF利回りが現在の配当利回りを上回る場合、その企業は増配余地があると判断できます。こうした判断にあたって重要な指標となるのがトレーリング・ヘッドルームとフォワード・ヘッドルームです。
トレーリング・ヘッドルームとフォワード・ヘッドルーム
トレーリング・ヘッドルームとフォワード・ヘッドルームは、財務分析において企業の財務的余裕やリスク評価に関連する概念です。それぞれの意味と用途について説明します。
トレーリング・ヘッドルーム
トレーリング・ヘッドルームは、過去の財務データに基づいて企業の財務的余裕を評価する指標です。具体的には、過去12ヶ月のフリーキャッシュフロー(FCF)を現在の株価で割ったトレーリングFCFイールドを使用します。この値を現在の配当利回りと比較することで、企業が配当を増やしたり、自社株買いを行ったりする余地(ヘッドルーム)があるかどうかを判断します。例えば、ある企業のトレーリングFCFイールドが7%で、現在の配当利回りが5%の場合、2%のヘッドルームがあると考えられます。これは、過去のデータに基づいて企業の財務的余裕を評価する方法です。
フォワード・ヘッドルーム
フォワード・ヘッドルームは、将来の予測データに基づいて企業の財務的余裕を評価する指標です。これは、企業の将来のキャッシュフローや利益予測を基に、将来の財務的余裕を見積もるものです。例えば、将来の予測データを使用して、企業の予測されるフリーキャッシュフロー(FCF)と予測される配当支払いを比較し、将来的にどれだけの余裕があるかを評価します。この方法は、将来の市場動向や企業の成長戦略を考慮に入れて、企業がどの程度の財務的余裕を持つかを予測するために使用されます。
比較
特徴 | トレーリング・ヘッドルーム | フォワード・ヘッドルーム |
---|---|---|
基づくデータ | 過去12ヶ月の実績データ | 将来の予測データ |
主な用途 | 過去の財務的余裕の評価 | 将来の財務的余裕の評価 |
リスク評価の視点 | 過去のパフォーマンスに基づく | 将来の見通しに基づく |
トレーリング・ヘッドルームは過去の実績に基づくため、比較的確実性が高い一方で、フォワード・ヘッドルームは将来の予測に基づくため、不確実性が伴います。しかし、両者を組み合わせて評価することで、より包括的な財務分析が可能となります。
ラッセル1000バリュー・インデックスの高配当銘柄
以下は、投資情報サイト、マーケットウォッチが発表した高配当銘柄リストです。ラッセル1000バリュー・インデックスの中から配当利回りが高く、ヘッドルームが2%以上ある銘柄が選ばれています。FCF(またはEPS、AFFO)の過去12ヶ月の実績、将来予測のデータが入手可能で、少なくとも5人のアナリストがカバーしている企業が対象となっています。
会社名 | ティッカー | 配当利回り | トレーリング・ヘッドルーム | フォワード・ヘッドルーム | ヘッドルーム計算方法 |
---|---|---|---|---|---|
メディカル・プロパティーズ・トラスト | MPW | 12.63% | 10.32% | 3.25% | AFFO |
コールズ | KSS | 9.14% | 21.91% | 12.20% | FCF |
リズム・キャピタル | RITM | 8.90% | 4.42% | 7.00% | EPS |
EPR プロパティーズ | EPR | 7.88% | 3.78% | 3.42% | AFFO |
ベライゾン・コミュニケーションズ | VZ | 6.52% | 4.57% | 4.61% | FCCF |
コロンビア・バンキング・システム | COLB | 6.46% | 4.00% | 4.84% | EPS |
アンテロ・ミッドストリーム | AM | 6.16% | 2.76% | 3.88% | FCF |
クリアウェイ・エナジー | CWEN | 6.11% | 10.66% | 14.00% | FCF |
キルロイ・リアルティ | KRC | 6.04% | 4.77% | 3.68% | AFFO |
WPキャリー | WPC | 5.98% | 2.58% | 2.21% | AFFO |
ブリストル・マイヤーズ・スクイブ | BMY | 5.98% | 9.42% | 8.00% | FCF |
AT&T | T | 5.97% | 10.42% | 7.06% | FCF |
クリアウェイ・エナジー | CWEN.A | 5.61% | 12.55% | 16.17% | FCF |
ライオンデルバセル・インダストリーズ | LYB | 5.60% | 3.00% | 2.67% | FCF |
オルガノン | OGN | 5.40% | 4.12% | 10.98% | FCF |
パークホテルズ・リゾーツ | PK | 5.39% | 2.76% | 4.06% | AFFO |
フランクリン・リソーシズ | BEN | 5.34% | 4.09% | 6.90% | FCF |
サイモン・プロパティ・グループ | SPG | 5.33% | 2.62% | 2.22% | AFFO |
NNNリート | NNN | 5.14% | 2.13% | 2.41% | AFFO |
コメリカ | CMA | 5.06% | 3.93% | 4.53% | EPS |
まとめ
バリュー株へのシフトが進む中、配当利回りの高い銘柄は投資家にとって魅力的な選択肢となります。ラッセル1000バリュー・インデックスの構成銘柄をスクリーニングし、フリー・キャッシュ・フロー利回りなどを基に企業の配当支払い能力を評価することで、減配リスクを回避しつつ、安定した収益を確保することが可能です。
投資を検討する際には、必ず自分自身で調査を行い、情報を精査してから判断するようにしましょう。
*過去記事はこちら 配当株