アップスタート・ホールディングス(UPST)の第2四半期決算の発表が8月8日に行われます。2020年後半の新規株式公開後に1,200%以上上昇したあと、現在の株価はピークから90%以上低下しており、その乱高下の激しさは最近の米国市場の中でも飛び抜けているアップスタートですが、同社が今後再び成長軌道に戻れるのかを見極めるには2つのポイントがあると考えられます。
FICOスコアより優れた成績を維持できるのか
アップスタートの売りは、金融機関が借り手の信用度を判断するために何十年も使ってきた物差しであるフェアアイザック社のFICOスコアを上回る精度の判断を同社のAIを搭載したプラットフォームが行うことができるというものです。
この主張を裏付けるデータとして、アップスタートは2022年第1四半期の決算説明会で以下の表を示しました。
この表については過去記事でも何度か紹介しており、こちらの記事「アップスタート 問われているのはAI融資の性能」で詳しく述べていますが、アップスタートのAIが一貫して、FICOスコアの引き受けよりも正確にリスクを数値化してきたことを示しています。
例えば、表の一番下の行であるFICOスコアが639以下の借り手は、一番右端の列が示すように年率7.7%のデフォルト率でした。
これに対しアップスタートはこのFICO範囲内のローンをA+からE-の間で等級付けしており、A+が最も良いローン、E-が最も悪いローンとして評価しています。表の一番下の行が示すようにFICOスコアでは7.7%のデフォルト率だった層でもアップスタートの評価ではA+の1.2%からE-の10.2%まで実績で大きなバラつきあったことがわかります。
FICOスコアで639以下と判断された借り手でもアップスタートでA+〜Cランクと判断された借り手であれば、FICOスコアのトップランク700以上よりも低いか同等のデフォルト率であったことをこの表は示しており、デフォルトが75%少ないというアップスタートの主張を裏付けています。
ただ、このデータは好況であったり低金利だった過去の実績であり、経済を取り巻く環境が大きく変わりつつある現在の状況を反映したものではありません。
借り手が支払いを行ったり、滞納したりするたびに、そこから学習して少しずつ賢くなっていくAIを用いたアップスタートのプラットフォームはこうした環境の変化にも対応できるはずで、硬直したFICOスコアよりも良い成績を残すと考えられますが、それはあくまでも理論上であり、実際に不況時に使われた経験がないアップスタートにはそれを実績で示すことが求められています。
経営陣が第2四半期決算でこうしたデータを示すことができるかが注目ポイントですが、有意なデータを示すにはまだ時間が足りないことも否めない事実です。それを示すことができればアップスタートへの不安は一挙に払拭できそうですが、それには少し時間がかかると思われます。
融資パートナーの数
そうしたデータが足りない点を補い、アップスタートのAIが宣伝通り機能しているかどうかをより端的に示すのが、もうひとつの注目ポイントある融資パートナーの数です。
アップスタートは貸し手になることを望んでおらず、自社の技術でできるだけ多くのローンを組成し、それを貸し手である銀行や信用金庫に売りたいと考えています。
そのために数多くの銀行や信用組合を融資パートナーに迎えたいと望んでいますが、そうした貸し手がアップスタートと提携することを決めるカギとなるのが、そのAI融資プラットフォームの性能が喧伝どおりに機能するのかという点です。
アップスタートは同社のプラットフォームを導入するのに6〜15ヶ月かかると述べており、貸し手にとっては大きなコミットメントであるため、導入の決断にあたってはその性能が機能するかを慎重に見極めているはずです。
ですから、融資パートナーの数が増えるということは貸し手がアップスタートのAIを信頼しているという素晴らしいサインであると考えられ、アップスタートの機能が現在の環境下でも成果を出していることを端的に示していると考えられます。
アップスタートの融資パートナーは2021年第1四半期に18社しかありませんでしたが、3月末の時点で57社に増えています。そのうち11社は、融資申請の要件からFICOスコアを削除するほど技術に満足しており、この点からアップスタートのプラットフォームが機能していることがわかります。
第2四半期決算でこの融資パートナーの数がどれだけ増えているのか、今後のアップスタートの成功を見極める上で見逃せないポイントとなっています。
仮にこの2つのポイントで明確なデータや数字を今回の決算発表で示せなくても、アップスタートの今後について悲観的になる要素は少ないと思われます。
同社の最大のセグメントである個人ローンは、経済が軟化すると、ローンを組む人が減る可能性があり、収益の伸びが鈍化するか、あるいは事業が縮小する可能性があります。
好況時と比べると業績が悪くなるのはこの業界の宿命であり、その影響による業績の悪化をAIアルゴリズムの性能によるものと結びつけているような現在のアップスタートへの評価は、そうではないことを証明するデータが出るにつれ改善されると予想されます。
*過去記事はこちら アップスタート UPST