不況下においても魅力的なハイテク株

金利上昇、高インフレ、景気後退懸念という悪材料が目白押しの中、ハイテク株は大きく売り込まれています。消費者向けのeコマースやハードウェアの銘柄は需要の低迷に悩まされ、ソーシャルメディアの銘柄は広告の買い手が減少し、サプライチェーンの問題が半導体銘柄に打撃を与えています。ほぼすべてのハイテク株が年初来安値を更新し、50%以上下落した銘柄も少なくありません。

そんな状況においても順調な成長が期待できる分野として注目されているのがクラウド・コンピューティングです。

アマゾン(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)の最近の決算報告で明らかになったように、クラウドベース・コンピューティングサービスに対する需要は膨大で拡大しています。柔軟性の向上とコスト削減というクラウドが約束する効果は、あらゆる企業のコンピューティングの扱い方を根本的に変えています。

クラウド・コンピューティングについては、クレディ・スイスのアナリストであるフィル・ウィンスロー氏が大部のリサーチノートを発表しており、パブリッククラウドに対する企業の支出は、2024年までにオンプレミスのインフラIT支出を上回ると述べています。「マイクロソフトのAzureは予想よりも早く、そして大きく成長するとアナリストが予測

同氏は、マイクロソフトの躍進を予想して推していますが、首位のアマゾン・ドット・コムともども今後もこの2強がこのマーケットの中心となることが予想されます。

ただ、ここに来て、この2社にGoogle Cloudを加えた3強に迫る勢いで成長していることが注目されるのがオラクル(ORCL)です。

同社は、自社ソフトウェアのクラウドベース・バージョンの採用を顧客に促すと同時に、パブリック・クラウドのビッグ3に対抗するものとして、Oracle Cloudを立ち上げました。

事業は順調に成長し、昨年12月中旬までに株価は70%以上上昇していましたが、その後に始まったハイテク株全般の下落と、もう一つ、病院や医療システムにサービスを提供する電子医療記録企業サーナーを280億ドルの現金で買収することを12月下旬に発表したことで、株価は大きく下落してしまいました。

オラクルはこれまでにも、ピープルソフト、シーベル、サンマイクロシステムズなど多くの大型買収を行ってきましたが、サーナーは過去最大の買収案件となりました。

オラクルはヘルスケアのデジタル化に大きく賭けると共に、サーナーのソフトウェアをOracle Cloudに移行することで、莫大なコスト削減を実現することにも賭けています。

オラクルはこの取引が直ちに収益を押し上げると述べていますが、この買収によって統合リスクが高まることや、オラクルが追加債務を負う必要があり、これまで非常に積極的だった自社株買い計画も控えめなものになることなどが懸念され、サーナーとの取引が発表される直前にピークを迎えて以来、オラクルの株価は38%下落し、約1000億ドルの市場価値が失われました。

ドイツ銀行のアナリスト、ブラッド・ゼルニック氏は、サーナーの買収は、オラクルのクラウドへのシフトに疑問を投げかけるものであり、この買収は、オラクルのクラウドへの取り組みについてすでに心配していた懐疑派に弾みをつけたと述べています。

しかし、6月13日に発表された第4四半期決算の内容がこの流れを変えたようです。

5月31日に終了した第4四半期、オラクルの売上高は118億ドル(為替調整後10%増)で、2011年以来最高の成長率を記録しました。この数字は、同社自身のガイダンスとウォール街の予測を上回っています。

オラクルの最高経営責任者(CEO)であるサフラ・カッツ氏は投資家に対し、クラウドの売上成長率は8月期に25~28%、2023年度には30%以上に加速するはずだと述べています。6月17日にTikTokが、米国内のすべてのユーザートラフィックをOracle Cloudに移行すると発表したことも成長の加速を裏付ける事例と見られています。

ゼルニック氏はオラクルを「買い」、目標株価を110ドルとして、70%のリターンを期待しており、オラクルのガイダンスは、事業全体が為替調整後で1桁台の高い売上成長を続けることを示唆していると述べています。

ゼルニック氏は、どの企業も深刻な不況から免れることはできないとしながらも、今後数カ月は他の力学がオラクルを動かし、株価の反発の舞台を作ると考えており、「インフレはオラクルにとって好材料だ」と述べています。

その理由として同氏は、オラクルの顧客契約には、インフレ指数に連動した値上げが組み込まれていること、オラクルのソフトはスイッチングコストが高いため、顧客は値上げにほとんど抵抗感を示さないことをあげています。

オラクルの株価はマーケット全体のハイテク株売りにより、ほとんどの指標で割安になっています。最近の68ドルという価格は、ゼルニック氏が予想した2023年5月期の1株当たり利益5.36ドルの13倍以下、そしてサーナー買収後の売上高500億ドル弱の4倍以下となっており、いずれもマイクロソフトの評価額の半分以下です。

オラクルのクラウド成長ビジョンが実現すれば、不況の有無にかかわらず、株価が回復する可能性は非常に高いと思われます。

*過去記事「オラクル 予想を上回る決算を発表し時間外で急騰

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