先週50%以上も下落したアップスタート・ホールディングス(UPST)。下落した直接的な原因は2022年の売上高のガイダンスを下方修正したことですが、不安の源泉となっているのは、その自慢の人工知能(AI)を用いた信用引受モデルが不況下でも機能するかということです。
アップスタートはAI使って、「真のリスクに基づく楽な与信を可能にする」消費者金融プラットフォームであり、クレジットスコアのような従来の方法を大幅に改善した自社製の信用貸付モデルを構築しています。
従来、米国の銀行は誰がどのくらいの金利でローンを組む資格があるかを判断するのに、フェア・アイザック社のFICOスコアリングに依存していました。FICOスコアリングは、12~20の変数を用いて算出される3桁の数字でリスクを判断しようとするものです。
一方、アップスタートのプラットフォームでは、AIを活用して、申込者ごとに1,500以上の変数と2,160万以上の返済イベントを調査し、より正確なローン判定を行うことができます。借り手が支払いを行ったり、滞納したりするたびに、アップスタートのAIモデルは少しずつ賢くなっていきます。
アップスタートの目標は、FICOスコアリングにいつか取って代わることです。そのため、アップスタートのAIを搭載したプラットフォームにより、銀行は承認率を維持したまま損失率を75%近く下げることができるとか、銀行は損失率を一定に保ちながら、より多くの借り手をより低い金利で承認することができると言ったことを同社は喧伝して来ました。
では、両者の性能に実際どれだけの差があるのか、それを示す以下のようなデータが第1四半期の決算説明会で示されています。
3月22日時点の年率換算デフォルト率(過去4年分のヴィンテージ)出所:アップスタート
上記の表は、アップスタートのモデルがリスクを定量化するのに良い仕事をしていることを示しています。同社は、一定のFICO範囲内のローンをAプラスからEマイナスの間で等級付けしており、Aプラスが最も良いローン、Eマイナスが最も悪いローンとなります。
例えば、FICO700以上の範囲内でアップスタートがAプラスに格付けしたローンの年率デフォルト率は0.6%であるのに対し、FICO700以上の借り手全体の年率デフォルト率は3.4%であることをこの表は示しています。
FICOスコア639点以下のアップスタートAプラスグレードのローン(デフォルトしやすい借り手のカテゴリー)は、年率デフォルト率が1.2%であるのに対し、FICOの借り手全体のデフォルト率は7.7%です。
つまり、アップスタートのスコアリングは、これまでのところ、FICOよりも明らかに正確だったということがこの表から読み取ることができます。もちろん、アップスタート提供のデータであるという留保付きではありますが。
そしてもうひとつ留保すべきなのが、このようにアップスタートのAIモデルがFICOスコアを凌駕しているのは、好況だった過去4年間のことだったということです。
銀行や信用組合、資本市場からさらなる信用を得るには、アップスタートはそのAI引受アルゴリズムが従来のローン引受より優れていることを長期にわたって証明する必要があります。
経済環境が悪化してデフォルトや貸し倒れが急増し、アップスタートがFICOをわずかに上回るだけなら、貸し手はわずかなパフォーマンスのためにアップスタートに手数料を支払うことを望まないかもしれず、単にFICOを上回るだけでそのモデルを完全に証明するのに十分かどうかはわかりません。
アップスタートには、延滞の傾向が金利サイクルを通じてどのように変化するかを見極め、不況期でもその性能が優れていることを示し続けることが求められています。
*過去記事はこちら アップスタート UPST