伝統的に景気後退は半導体セクターにとって不利であると言われています。しかし、そうした経験則が今回はどうやら当てはまらないようです。半導体業界のリーダー企業が最近の四半期決算報告で示した今後の見通しからは、半導体の成長が加速し投資家にとって大きなチャンスになる可能性があることが示唆されています。
4月14日に台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSM)、4月20日にASMLホールディング(ASML)の四半期決算が発表されました。
「TSMC 予想を上回る決算を発表、6月期も好調」
「ASML 売上高の見込みが予想を下回るも株価急騰」
TSMCは50%以上のシェアを持つ世界有数のサードパーティーファウンドリー。ASMLは、ウェハーにトランジスタのパターンを印刷する極細のレーザーを照射するリソグラフィー装置で首位に立っており、最先端チップに必要な極端紫外線(EUV)技術を独占しています。
両社とも前四半期はアナリストの予想を上回り、今後の需要も非常に旺盛である述べており、TSMCは、来年の需要を満たすのに十分な生産能力を確保できるかどうかが心配だということです。
TSMCは2020年に25.2%、2021年に18.5%成長しており、2022年はさらにそれに上乗せした成長が見込まれています。しかし、インフレが進行し、米連邦準備制度理事会が金利を引き上げる中、過去に見られたような激しい半導体不況が間近に迫っているとの見方が浮上しており、成長の継続が困難になるとの懸念からかTSMCの株価は過去52週の高値から約31%下落しています。
しかし、TSMCの決算説明会で明らかになったのは、経営陣が半導体産業(メモリを除く)が今後5年間で平均で一桁台の後半の成長率で成長の速度が加速すると予測していることです。過去10年間の半導体業界の年率平均成長率はわずか4%でした。
この成長率の差は、5年、10年と積み重なれば、業界規模に大きな差をもたらすものであり、それが市場の認識と当事者である企業が示すガイダンスとの乖離の原因になっている可能性があります。もし投資家たちが、現在の好調な市場が以前の平均成長率に戻ると考えているなら、彼らは需要を過小評価している可能性があります。
ASMLもTSMCに続き、非常に強気なコメントを発表しています。ASMLの経営陣は、現在、生産能力を大幅に増強しようとしており、それでもすべての需要を満たすことができないかもしれないと述べています。
現在、ASMLは総需要の60%しか満たすことができないとし、もし今日DUVマシンが欲しい人がいたとしても、今から18カ月後の来年末まで手に入れることはできないだろうと述べています。
投資家が来年の景気減速を懸念していることを考えると、経営陣は楽観的すぎるのではないか、という質問が決算説明会で出たそうですが、同社の来年の需要は600台で、同社の生産キャパを完全に上回っており、需要が35%から40%減ってようやくキャパに見合うようになるレベルである事実をあげてピーター・ウェニンクCEOは回答としたそうです。
既に5,550億ドルという巨大な市場規模となっている半導体産業が、なぜさらにその成長を加速できるのかについては2つの要因が考えられます。
一つは、人工知能アプリケーションにサービスを提供する、高性能でエネルギー効率の高いコンピューティングを実現する最先端チップのニーズが大きく増えつつあること。
二つ目は、工場や家電、自動車などの自動化が進む「モノのインターネット」によって、現在のキャパシティをはるかに超える旧世代チップへの需要が津波となって押し寄せていることです。
この二つのメガトレンドだけでありません。これに加えて5G携帯電話やハイエンドPCの普及が世界中で進んでおり、半導体の需要は衰えそうにありません。
米中貿易戦争とコロナの発生により、2018年から2020年にかけての生産能力投資は低調で、業界の生産能力は需要に大きく遅れをとっており、半導体のこの好景気は、経済全体のサイクルからはあまり影響を受けることなく、今後も続くものと見られます。