アップスタートのダウンサイドリスクを考える

2020年12月に上場したアップスタート・ホールディングス(UPST)の株価はジェットコースターのような動きをしています。10カ月で13倍以上に急騰した後、大きく下落、結局、2021年は年間で271%の上昇にとどまりました。

アップスタートの融資プラットフォームは、人工知能(AI)を利用してFICOスコアが見落とす可能性のある詳細情報を把握することで、より多くの借り手がクレジットにアクセスできるようにすることを目的としており、同時に量的成長をサポートし、貸し手のコストを削減します。

アップスタートの株価は、直近の高値から約3分の2に下落し、昨年7月以来の水準で取引されており、購入のチャンスであるとの見方も多く出ています。

しかし、こんな時だからこそ、この株の持つダウンサイドのリスク、ひとたび歯車が上手く回らなくなれば、株価がさらに大きく下落しかねない、マイナス要因があることも認識しておく必要があります。

顧客と商品の集中

アップスタートは、プラットフォーム上に合計31の銀行および信用組合のパートナーを有しており、1年前のわずか10から大幅に増加しています。

このように同社の長期的な成功にはエコシステムの拡大が不可欠ですが、まだ売上は少数のパートナーに偏っています。直近の四半期では、2億2,800万ドルの売上のうち84%が、わずか2社の金融機関からのものでした。

この顧客集中度は、四半期を追うごとに自然と多様化していくはずですが、現在、アップスタートの運命は、この2社のパートナーの意思と能力に依存しています。もし彼らがアップスタートの手数料が割に合わないと判断したり、アップルの提供するテクノロジーが借り手の査定に何のメリットももたらさないと判断したらどうなるでしょうか?

また、自動車ローン市場での事業展開が進んでいるとはいえ、アップスタートの売上のほぼすべては、個人向けローンという1つの商品からもたらされています。

これらは無担保であるため、景気が悪化した場合、借り手は支払いの際に他のローン(住宅ローンや自動車ローンなど)を優先することを選択する可能性があり、アップスタートのパートナー企業の債務不履行が増加し、同社の信用承認アルゴリズムの正当性が損なわれることになります。

大手銀行と競合他社の存在

アップスタートが現在参入している個人ローンと自動車ローンの市場は、それぞれ810億ドルと6,720億ドルという巨大な市場であることは事実です。ただ、同社が最終的にこれらの市場や同社が提供する他の融資商品でかなりのシェアを獲得するとまで考えるのは現実的ではないかもしれません。

JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、シティグループなどの大規模な銀行は、合計で3.5兆ドル近い純貸付残高を有しています。それに比べてアップスタートの過去12ヶ月間の融資総額は89億ドルとわずかです。

さらに、大手金融機関は、アップスタートのプラットフォームの助けを借りずに、自社でテクノロジーに投資する資源を持っています。例えば、JPモルガンはテクノロジーに年間120億ドルを投資し、5万人の従業員がデジタル・イニシアティブに取り組んでいます。これは、アップスタートの全時価総額よりも多い額です。

アップスタートはこれまで、自社でテクノロジーに投資するリソースを持たない、はるかに小規模な融資パートナーを取り込むことに成功してきましたが、大手銀行は依然として米国の信用活動の重要なシェアを占めています。

また、レンディングクラブ(LC)やソーファイ・テクノロジーズ(SOFI)などの直接の競合企業は、すでにテクノロジーをプロセスに組み込んでいます。これは、アップスタートの真のアドレス可能市場を著しく制限します。

堅調な経済への依存

アップスタートはローンの組成を行わないため、信用リスクを直接負うことはありませんが、このビジネスは経済全体の動向に大きく影響されます。当然のことながら、堅調なGDP成長率、低失業率、低金利といった好調な経済状況下では、信用に対する需要が高まります。

しかし、不況期には、その逆のことが起こります。経済全体のことにはアップスタートのコントロールが及ばないため、問題は悪化します。

パンデミックの恐怖と不確実性がピークに達した2020年の第2四半期、アップスタートの融資件数と売上は、同年の第1四半期と比較して、それぞれ86%と73%減少しました。貸し手であるパートナーは、リスクを下げてバランスシートを補強するために、顧客へのオリジネーションを減らしました。

さらに、アップスタートが提供するローンの大部分(現在も増加しています)は第三者の投資家に販売されているため、資本市場が枯渇するとアップスタートのエコシステムは混乱します。

パンデミックをきっかけとした不況は短期間で終わりましたが、経済不況が長引くようになれば、どうなるでしょうか。アップスタートのAIモデルの有効性が改めて試されるのは間違いありません。

ひとつ言えることは、パートナーが提供するローンの量や、機関投資家からの資金調達額が圧迫されることから、不況下ではアップスタートは厳しい状況に置かれる可能性が高いということです。

*過去記事はこちら アップスタート UPST

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