アップスタートは競争力のある堀を持たず過大評価

これほど急激に上がってくると、アップスタート(UPST)に対する否定的な意見も出てきます。

アップスタートを強烈に否定しているのが、シーキング・アルファに以下のタイトルで掲載された9月9日付けのこの記事。

「Upstart: Nosebleed Valuation With No Competitive Moat And Massively Overvalued」
(アップスタート:競争力のある堀を持たない鼻息の荒い評価と、大量の過大評価)

記事の要点
・アップスタートは、2020年12月に14.5億ドルの評価額で上場。それから2年も経たないうちに、完全希薄化ベースでは270億ドル以上の評価額となっている

・アップスタートは、アルゴリズムを使用することでクレジットへのアクセスを拡大する「AI」レンダーとして自社をパッケージ化している。

・アップスタートは、時間の経過とともにマージンが圧縮されていく。アップスタートは、ローンを組成するために平均6%の手数料を得ている(一方で、事実上リスクは取っていない)。

・アップスタートを所有している人は、下調べをしていない。アップスタートは、直近の四半期に28億ドルのローンを実行したが、現在の時価総額では、年間1,000億ドルをはるかに超えるローンの実行を想定していることになる。

・アップスタートを所有するということは、伝統的な銀行が喜んでこの会社にローンの組成を譲り、アップスタートが個人および自動車ローン全体の年間15%を組成することを想定していることになる。これは両方とも、とんでもない仮定であり、アップスタートは大幅に過大評価されている。

長大な記事なので詳細は省きますが、筆者が言いたいことは記事の最後に要約されています。


アップスタートの投資家は、信じられないほど資本力のある既存の銀行や、巨額の評価額を持つ新興のフィンテック企業、そして今日では知られていない企業がアップスタートの行動を見ておらず、機会を狙っていないと想定しています。

アマゾンは何百億ドルもかけて物流施設、配送機能を構築し、堀を作りました。マイクロソフトは、文字通りほとんどすべてのPCにインストールされる製品を作り、堀を作りました。セールスフォースは、企業にとってなくてはならないアプリケーションを開発し、堀を作りました。アップルは、消費者の生活に織り込まれたデバイスとオペレーティングシステムを開発し、堀を作りました。

アップスタートは、ソフトウェアのコードを書き、それをデータと照らし合わせてテストし、より効率的にお金を貸す方法を開発しました。堀はありません。データへのアクセス、そのデータに機械学習を適用する能力、銀行パートナーへのアクセス、そしてこの収益性の高いビジネスをコピーしたいという願望を持つ企業がアップスタートを追いかけるのを止めることはできません。

買い手は注意してください。あなたが買おうとしている会社には堀がありません。



ここで言っている「堀」とは「経済的な堀」。特定の企業がもつ、その企業の競争力の強さや、その業界への参入障壁のことを指します。

その「堀」がアップスタートにはないと言っている訳です。時間とお金、人材を投入すればアルゴリズムはコピーが可能で、そうなれば手数料の値下げ合戦のような形となり、とても今の株価を維持できる収益をあげることなどできないというのが記事の趣旨。

そう確かに、そこが肝なんですよね。アップスタートのビジネスの。そのアルゴリズムがマネできるものなのかどうか、形だけはマネることができても同じレベルのデフォルト率の低さを実現できるのか。

これについては、他の記事でも書きましたが、アップスタートのCEOであるデイブ・ジルーアード氏がモトリーフールのインタビューで語っていますので、再掲します。


アップスタートの最大の資産は、独自に開発した最先端のAIプラットフォームを支える知的財産であり、ジルーアード氏は大手銀行らの競合他社がアップスタートの行ってきた仕事を複製することを恐れていません。

同氏の説明によると、データを収集し、それを解釈し、初期のAIモデルを構築すること。そして、実環境下でのパフォーマンスを確認し、時間をかけてパフォーマンスを向上させることを目標にそれを改良するというプロセスには、単純な近道はありません。

もちろん、大手銀行がその豊富なリソースを用いて、アップスタートの9年間に及ぶ実績を持つ融資AIの先を行くことができないというわけではありません。

ただ、、競合他社は実証されていない融資モデルに賭けなければならないのに対し、アップスタートは豊富な経験から、自社のモデルがより成功するという自信を持っています。

ジルーアード氏は、アップスタートが立ち上げの過程で多くのことを学んだことを指摘しています。競合他社は、同じ学習曲線をたどって独自の洞察を得なければなりません。


どちらが正しいのか、今の時点では判断できません。ただ、仮にコピーすることができたとしても、一朝一夕ではできそうにないことだけは確かなようです。開発までどれだけ時間がかかるのかはわかりませんが、日進月歩で動いているこの世界で先行者利益をアップスタートが享受してその地歩を固める可能性は決して低くありません。

このコピーの問題と経済環境が変わってもアルゴリズムがその有効性を示し続けることが出来るのかという2点は今後も折にふれて提起されるアップスタートの問題点かと思われます。

最新情報をチェックしよう!