ネット障害を起こしたファストリーの株価が急騰

欧米や日本の政府機関や主要メディア、ネット通販などのウェブサイトが日本時間の6月8日午後7時ごろから一時、接続できなくなりました。

世界のウェブサイトで8日午後6時50分ごろ、大規模なシステム障害が発生した。日本経済新聞社や読売新聞社、メルカリのほか、海外でも米ニューヨーク・タイムズや英フィナンシャル・タイムズなどのサイトが一時閲覧できなくなった。ウェブコンテンツを素早く配信するサービスを手掛ける米fastly(ファストリー)に障害が起きた。

8日深夜時点で多くのサービスは復旧している。

英国政府サイトや日本の金融庁や環境省でも一時サイトの閲覧ができなくなった。米アマゾン・ドット・コムや楽天グループの通販サイトなど幅広いサービスに影響が出た。各社のウェブサイトはファストリーのコンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN、コンテンツ配信網)のサービスを利用していた。

出所:日本経済新聞電子版

今回のファストリー(FSLY)の障害は、「Solar Winds」のようなサイバー攻撃や、最近多発しているランサムウェアのようなインターネット関連の問題とは異なり、昔ながらのソフトウェアの不具合でした。

ファストリーの広報担当者は、声明の中で、「これはサービス構成に起因する技術的な問題であり、サイバー攻撃とは無関係である 」と述べています。

ファストリーをはじめとするコンテンツ配信ネットワーク(CDN)は、コンテンツやサービスへのアクセスをユーザーの近くに置くことで、ウェブサイトのパフォーマンスを向上させます。顧客には、スピーディーで反応の良いウェブサイトのパフォーマンスを期待するメディアや小売業の企業が含まれます。

CDNは複雑で、世界各地に設置された何千台ものサーバーで構成されています。CDNの運営会社であるファストリーは、顧客のニーズの変化やセキュリティアップデート、ソフトウェアのアップグレードなどに合わせて、日常的に設定を変更しています。そのような変更が、火曜日に行われました。

ファストリーのライバルであるアカマイ(AKAM)のシニア・バイスプレジデントであり、同社のアカマイ・ラボ部門の最高技術責任者であるアンディ・シャンパン氏によると、火曜日の朝、多くのサイトで人々が目にしたメッセージ「503 エラー」は、単にそのページが利用できないことを意味しています。

回復の速さとエラーメッセージの性質から、これが外部からの攻撃によるものではないことは明らかだとシャンパーニュ氏は述べています。また、ネットワーク構成の更新は常に行われており、アカマイの場合は5分から10分ごとに行われているとのことです。

ガートナー社のテクノロジー&サービス・プロバイダー・グループのシニア・ディレクターであるマイク・ドロッシュ氏は、ファストリーが自社のネットワーク全体に「悪い設定をした」可能性が高いとし、同社の顧客の知名度やトラフィックの多さから、そのエラーがすぐに明らかになったと述べ、コードの一行にタイプミスがあったような類の単純なものであった可能性もあることを指摘しています。

「他のことであれば、これほど早く回復することはなかった。操作ミスとしか思えない」と同氏は語っています。

ドロッシュ氏は、ウェブサイトの運営者は、今回の障害の責任の一部を負わなければならないと述べ、より多くのサイトがリスクを減らすためにマルチCDN戦略の使用を検討すべきだと提案しました。

また、いくつかのケースでは、サイトが部分的に停止していることがありますが、これはウェブサイトが必ずしも単一のソースから提供されているとは限らないためです。例えば、広告や決済サービスは、パートナー企業が提供していることが多く、他のコンテンツ配信ネットワークと連携していることもあります。

ツィッター(TWTR)は今回の障害で直接影響を受けていないものの、同社の絵文字をホストするサーバーがダウンしたことが報告されています。

ドロッシュ氏はまた、CDNサービスの契約では一般的に、障害が発生した場合に何らかのクレジットやその他の補償が必要になると述べています。パイパー・サンドラー社のアナリストであるジェームズ・フィッシュ氏は、リサーチノートの中で、顧客にはサービスの払い戻しが行われる可能性が高く、また一部のトラフィックは他のCDNに移行する可能性があると述べています。

同アナリストは、「顧客への返金やトラフィックシェアの低下の可能性があるため、すでに困難な状況にある2021年をさらに困難にする」と書いています。同アナリストは、ファストリーの株価に対して「中立」の評価を維持し、目標株価を45ドルとしています。

このような問題を引き起こしたにもかかわらずファストリーの株価は6月8日のマーケットで急騰しました。終値は前日比10.85%増の56.2ドルとなっています。

過去にも大規模なシステム障害はありましたが、今回のような幅広い業種で世界的に広範にサービスが使えなくなるという障害は珍しく、原因が単純なミスと想定されることもあって、かえってファストリーの存在が世界のネットでいかに大きいかを知らしめす格好の宣伝になったという皮肉な結果なのかもしれません。

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