アマゾン「Trainium 3」投入の真意とは?脱エヌビディア依存に向けた勝算と課題を分析

2025年12月2日、ラスベガスで開催中の「AWS re: Invent」において、アマゾン(AMZN)は自社開発の最新AIチップ「Trainium 3」を発表しました。このニュースは単なる新製品の発表にとどまらず、クラウド王者であるAWSが、AIインフラの覇権争いにおいて新たなフェーズに入ったことを示唆しています。

今回は、公開された事実情報に基づき、アマゾンの半導体戦略における「勝算」と、直面している「課題」について分析します。

1. 性能4倍増が示す「垂直統合」への本気度

今回発表された「Trainium 3」は、前世代と比較して4倍以上の計算性能を実現し、エネルギー効率も向上していると発表されました。また、すでに次世代の「Trainium 4」の開発にも着手しています。

この開発スピードと性能向上の幅は、アマゾンが半導体開発を単なる「実験的なプロジェクト」ではなく、AWSの収益構造を支える「コアビジネス」と位置づけている証拠と言えます。エヌビディア(NVDA)製のGPUは高性能ですが、高価であり供給も逼迫しがちです。アマゾンとしては、自社チップの性能を一気に引き上げることで、顧客に対して「エヌビディア一択」以外の選択肢を現実的な解として提示する狙いがあると考えられます。自社で設計・運用を一貫させる「垂直統合」により、コスト競争力を高めようとする強固な意志が読み取れます。

2. スペック劣勢を「規模」でカバーする戦略か

一方で、技術的な仕様に目を向けると興味深い事実が浮かび上がります。チップ単体のメモリ容量を見ると、Trainium 3は144GBです。これは、競合であるアルファベット(GOOGL)の「Ironwood TPU」(192GB)や、エヌビディアの最新「Blackwell GB300」(最大288GB)と比較すると、数値上は劣っています。

しかし、アマゾンはこの「個の弱さ」を「群の強さ」で補うアプローチをとっているようです。発表では、数千台のサーバー(UltraServers)を接続し、最大100万個のTrainiumチップからなるクラスタを構築可能であるとしています。 単体性能の絶対王者がエヌビディアであるなら、AWSは「クラウドとしての拡張性」で勝負を挑んでいます。超巨大なモデルをトレーニングする際、個々のチップ性能も重要ですが、それらをいかに効率よく連携させ、大規模な計算リソースを安価に提供できるかが重要になります。アマゾンはメモリ容量というスペック上の見劣りを、圧倒的なスケールとコストパフォーマンスで相殺しようとしていると推測されます。

3. アンソロピックとの関係に見る「諸刃の剣」

アマゾンのAIチップ戦略の成否を占う上で、最も重要なのがAIスタートアップ「アンソロピック」の動向です。 アマゾンはアンソロピックに対し最大80億ドルを投資しており、アンソロピック側もアマゾンを「主要なトレーニングパートナー」と位置づけています。実際、アンソロピックは年末までに100万個以上の「Trainium 2」を使用する見込みであり、すでに50万個規模のクラスタ「Project Rainier」を利用しています。

これはアマゾンにとって強力な実績ですが、同時にリスクも孕んでいます。 なぜなら、アンソロピックは同時にグーグルのTPUチップを最大100万個使用する契約についても言及しており(グーグルの投資額は約30億ドル)、完全にAWSに囲い込まれているわけではないからです。

世界最先端のAI企業が「アマゾンのチップも使うが、グーグルのチップも使う」という判断をしている事実は、現時点ではまだTrainiumが他社を圧倒するほどの差別化、あるいは不可欠性には至っていないことを示唆しています。もし今後、アンソロピックがTrainiumの比率を下げれば、AWSの独自チップ戦略は大きな修正を余儀なくされると考えられます。逆に言えば、この巨大なアンカーテナントを満足させ続けることができれば、Trainiumは市場での地位を確立できるはずです。

結論:インフラの巨人による「持久戦」の始まり

Trainium 3の発表は、アマゾンがエヌビディアへの依存度を下げ、グーグルのTPUに対抗するための重要な一手です。 スペック(メモリ容量)での劣勢を、AWSならではの「スケーラビリティ」と「開発スピード(すでに次世代に着手)」でカバーしようとする戦略は、インフラの巨人らしい戦い方と言えます。

TSMC(TSM)による製造能力の確保と、アンソロピックという巨大な実証環境を武器に、アマゾンがどこまでAIチップ市場のシェアを切り崩せるか。2026年に向けて、チップ単体の性能競争から、データセンター全体での総力戦へと競争の軸が移っていくことは確実視されています。


情報ソース:  Amazon Launches New AI Chip. It’s Taking On Nvidia and Google. (Barron’s, Dec 02, 2025)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事はこちら アマゾン AMZN

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